ですか。」
「ちょっと風邪の気味ですけれど、一日か二日、臥っておりましたら、なおろうかと存じます。お知らせするひまがなくて、済みませんでしたね。」
「いえ、僕の方は構いませんが……どうぞ、お大事に。」
も少し居たものか、すぐに辞し去るべきか、浅野は迷ってるらしかった。
美枝子の頬にかすかな微笑が浮んだ。彼女は卓上に片肱をつき、手先で煙草をもてあそびながら、浅野を眺めた。
浅野はいつも、彼女に対して、おずおずとした卑下した態度、むしろ彼女を避けるような態度を取っていた。哲夫の勉強がすんで帰り際に、お鮨でもと言って茶の間に呼ばれても、何かの口実を設けて、さっと帰ってゆくのだった。それでも、古くからの知り合いなのだ。美枝子の亡夫は、ずいぶん彼の面倒をみてやり、彼が専門学校を無事に卒業出来たのも、半ばは亡夫の援助に依るのだった。其後、彼はずっと出入りを続けている。哲夫の謂わば家庭教師となったのも、美枝子の好意に依ることで、多分の謝礼を受けている。けれども彼は、美枝子と親しむのをなんだか遠慮してるらしかった。
そして一方では、彼は美枝子に対して遠慮のない口を利いた。何事でも思い切って率直
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