それに比べると、男はまるで赤ん坊だ。どんなに秘密に事を運ぼうとしても、すぐに尻尾を出すからね。」
「しかし君、秘密に姙娠する、それだけはちと言いすぎたね。」
「ははは、男が知らないうちに、と訂正するか。」
 そしてもう一笑に附されてしまった。噂の真偽などは問題でなかった。軽蔑と無関心とは紙一重の差だったのである。

 丁度その頃のことである。
 小泉美枝子は少しく思い悩んでいた。彼女自身にも訳の分らない欝陶しさで、一時間も、二時間も、ぼんやりしていることがあった。それでも、来客にはすべて快活に応対した。習性なのである。
 浅野正己が来た晩、美枝子は彼を応接室の方へ通さした。中学生の哲夫の勉学を週に二回ほど見てもらってる男なので、哲夫が風邪の心地で寝ているところだから、そのまま帰してもよかったのだが、ちょっと心にかかることがあったのである。彼女は哲夫の様子を見て、それから応接室へ出て行った。
 浅野はつっ立って、壁にかかってる洋画の風景を眺めていた。慌てたようにお時儀をして、まだ立っていた。
「どうぞ。」
 窓際の小卓を美枝子は指して、自分は横手のソファーに腰を下した。
「哲夫君、いかが
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