、全く、彼女の腹部とは関係がなさそうだった。その腹部がいつまでもふくらんでこないので、知人たちは少し期待外れがした。
知人たちといっても、三十五歳にもなる彼女の交際だから、男性が相当に多かった。そして男の側には、彼女に関するひそかな噂は、女の側によりも、一層悪い印象を与えた。
「あのひとが愛人を拵えようとどうしようと、それは俺たちの知ったことじゃない。」
それが最初の意見だった。美枝子は美しかったし、未亡人だったし、無関心に見過せる相手ではなかったが、然し、ただ愛人が出来たというだけで、それが何処の誰だか分らない間は、ただ一種の色気を彼女に添えるに止った。相手がはっきり分れば、おのずから事情は異ってきたろう。
ところが、噂が一転して姙娠となると、それはもう一種の嫌悪の情を伴ってくる。色気どころか、穢らしいものとなる。そしてこうなると、男は無慈悲なものだ。彼女の腹部がふくれてこないことにも、皮肉な解釈が加えられたのである。
「全くのところ、女というものには油断がならない。秘密に愛人をこさえ、秘密に姙娠し、秘密に事を処理する……つまり、一切のことを秘密に運ぶ能力を、女は持ってるのだ。
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