たしも、時期を待つことにしましょう。それから、ちょっと、あんたを紹介したい方があるから、あちらへ行きましょうか。」
 立ちかけて、俄に、恒子は美枝子の手を押えた。
「ところで、あのこと、このままでよろしいかしら。」
「あのことって……。」
「なんですか、顔を赤めて……。」恒子は頬笑んだ。「噂のたてっぱなしで、ほおっといて宜しいかしら。もっとも、相手のひとが誰だか、それこそ、まったく根も葉もないことだし、あんたもこうして、平気で人中に出てるんだから、間もなく噂も消えてしまうことでしょうけれど、なにしろ、問題が問題ですからね。」
「だって、今更、取り消すわけにもまいりませんでしょう。」
「だからさ、わたしがまた一骨折りしなければならないかと思って……。」
 美枝子は眼を足先に落した。
「ほおっといて、大丈夫だと思いますの。もう噂はこりごりですもの。それに、わたくしも、どうせ覚悟の上のことですから。」
 恒子はまだ不安心らしく、美枝子の顔を覗き込んだ。それから、気を変えるように立ち上った。
「あまり心配させないで下さいよ。」
 二人は黙って歩き出した。

 板倉邸でティー・パーティーが催され
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