た自身も、そうですわ。」
「なによ、そのオールなんとか……。」
 美枝子はもう心がそこになく、何を思い出したか、くすくすと笑った。
「わたくしね、おばさま、英語の勉強をはじめましたの。すっかり忘れていたので、自分でもびっくりしましたわ。」
「若いうちに、なんでもやってみるものですよ。先生は……。」
「それが、あまり上手ではないんですけれど……。」
「どなた。外人のかたですか。」
「お上手らしくないから、もちろん、日本人ですの。あの……浅野さん。」
「あ、そう。」
 何気なく返事をしながら、恒子はじっと美枝子の様子を窺った。美枝子は話を外らした。
「それから、おばさま、どうなんでしょうかしら、株の方……。」
「あ、忘れていました。大丈夫、安心しててよさそうですよ。さっきね、高木の奥さまにお目にかかって……御存じでしょう、総理府のあのかたの奥さま……それとなく探ってみますと、船の方は見込みが多そうですよ。あんたもまた、無鉄砲に背負いこみすぎてるようですけれど、まあ今のところ、なんとか辛棒するんですね。望みがありそうですから、手放さないことですね。」
「おばさまは、どうなさいますの。」
「わ
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