から、おばさま、姙娠の効果はてきめんでしょう。」
 恒子はじっと美枝子の顔を見た。
「いったい、あんたは、どうして星山さんがそんなに嫌いなんですの。危い噂までたてて……それほどにしなくてもねえ。」
「しんから嫌い。もう我慢なりませんでしたの。御商売がどうの、御様子がどうのと、そんなことではありませんわ。わたくしに直接なんとも言わないで、菅野の奥さまを通して、甘言を竝べ立て、しつっこく言い寄るなんて、そのやり口もいやですけれど、それもまあよいとして、あの指輪が気に入りませんの。」
「指輪……。」
「精巧な彫りのある、太い金の指輪、いつもはめていらっしゃるあれですの。」
「ああ、あんなもの、なんでもないじゃありませんか。」
「では、おばさま、お貰いなさいませよ。おばさまになら、きっと下さるわ。」
「そうね。貰いましょうか、ほほほ。」
「あんなの、アメリカ趣味とでも言うんでしょうかしら。」
「さ、どうだか。それより、一時代前の日本趣味とでも言ったほうが、よろしそうですね。」
「とにかく、ア・ラ・モードではございませんわね。あんなの、いつの時代にでも、オール・ド・モードのたぐいでしょう。あのか
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