集って、トランプを弄んだり、雑談をしたりして十時近くまで遊んだ。叔父が時々咳をするので、「もうお休みなすったらいいでしょう、」と彼は云った。
「そうだね。」と叔父は低い返事をした。
「叔父さんが一番負けね。」とトランプを片附けていた葉子が残りおしそうにして云った。
 叔父が立って行った時、「見ておあげよ。」と彼は妻に云って、それから縁側に出てみた。
 庭の樹影がかさかさと揺いだので後は耳を澄すと、あたりが寂然と静まり返った。その沈黙のうちに、何かが物影からじっと彼の方へ窺い寄ろうとしているのを感じた。それで縁側を歩き廻って、自分にも分らない妙に興奮した考えを振り落そうとするように肩を引きしめてみたりした。丁度柱時計が十時を打って、その空粗《ラッフ》な響きが室の中に鳴り渡った。それを静寂な夜が四方から押えつけている。彼は廃墟の跡を訪うような気分に包まれて、今一度遠い昔の世をふり返ってみるような心地で、我知らず長い間立ち尽していた。
 その時廊下の向うに足音がした。たえ[#「たえ」に傍点]子であった。彼女は薄明るみの中をすかし見て、夫の姿を認むるや否や殆んど駈けるようにして彼の許に身を寄せ
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