である。そして叔父はこう結んだ。「自然のものの意志を微細に研究すると、又別な世界が開けるようだね。」
「叔父さんのは素人《アマトウル》の研究だから一層興味が深いんでしょう。」
「そうだね。でも僕は凡てのことに余り素人すぎるんではないかと思うよ。」
「そうでもないんでしょうけれど……。」と云いかけて彼は口を噤《つぐ》んだ。妙にうち解け難いものがちらと感じられたので。そしてこう云ってみた。「メェテルリンクにランテリジャンス・デ・フルウル――花の知能、という面白い書物がありますよ。英訳がありますから読んでごらんなすったら。」
「そうか。」と云ったまま叔父はそれを深く尋ねようともしなかった。
 沈黙が続いた。そして二人の間に重苦しいものが置かれた。彼は耳を澄して何かをじっと聞きとろうとするような心地で居た。昼の光りが次第に移って淡くなるのが見えるように思えてきた。二人共離ればなれに居て、それで同じものを別々の眼で見守っているような心持ちが、はっきりと彼の心に映った。その時叔父が突然こう云った。
「あまり急にやって来たんで、少し驚かしたのではないかね。」
「いいえ、朝のうちにお手紙を戴きましたか
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