。私の愚かさをお許し下さいませ。
 たった一行の御返事でも頂けますなら、もしそれが絶望で心をまっくらにするものでありましても、どのように有難くうれしく思われることでございましょう。
 苦しく苦しく思いつめまして……。失礼何卒おゆるし下さいませ。
  吉岡先生様御許に[#地から1字上げ]葉山紀美子

 何か異様なのである。こういう手紙は容易には書けぬ。文字も麗わしく、美文調でもあるが、底に、妖しいとも言える一徹なものを湛えている。それが吉岡信一郎の心に一本の釘を刺した。彼はペンを執った。
 ずいぶん長く間を置いて、手紙が来た。次々に来るようになった。

 野辺に萩咲く秋になりました。
 吉岡先生には御機嫌うるわしくいらせられましょうか、お伺い申上げます。
 先頃は思い迫って、厚かましい無茶苦茶なお手紙を先生に差上げまして、どうなることかと恐ろしさに、じっと目をつぶっておりました。
 それが、それが、ほんとうにどうしたことでございましょう。神様のようにおえらい先生が私のようなバカにお手紙を下さいました。
 私は狐にでも[#「狐にでも」は底本では「孤にでも」]ばかされたように、ぽかんとして、
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