も、何もかもすっかり失せて、この世に身の置きどころもない苦しい苦しい空虚に、胸がにえ返ります。
何の道にも師弟の間はあるものゆえ、もし先生に泣き泣きおすがりして、我魂の眼を開いて頂き、救って頂けましたならと、ひとり思うのでございますけれど、そのようなことが果して我身に可能なことか、何も知らず知己をも持たぬ身の、ひとりで考え悩む愚かしさに、只うつうつと長い月日がたちました。
私がこの世で一番おえらいと思い申上げております吉岡先生に、恥も厚顔も愚かさもかまわず、一度お手紙を書きまして、この切ない思いつめた一念をお訴えしてみようと決心致しました。愚劣なことを、ばかな気狂めと、先生がお顔をおしかめになってお怒り遊ばしますことは、火を見るよりもはっきり致しておりますけれど、私はもう無茶苦茶な心でこのお手紙書きました。
哀れな淋しいみすぼらしい私の魂をお救い下さいませ。私に文学のことお教え下さいませ。小説を書くことお教え下さいませ。一生のお願いでございます。どうぞ哀れな小さい魂の切ない願いをおききとどけ下さいませ。伏して伏してお願い申上げます。
苦しくて息がつまって、もうこれ以上書けませぬ
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