何にもわけがわかりませぬ。私は夢を見ているのではないのでございましょうか。何にも信じられませぬ。夢ならば、いつ迄もいつ迄も死ぬるまで醒めないでほしゅうございます。
私は先生にどのように御礼のお言葉を申上げてよろしいか、その言葉がわからなくて、今日は今日はと思いながら、つい日を過してしまいました。何卒お許し下さいませ。
私はバカでございますから、どのように愚劣なことを申上げるかわかりませぬ。下らぬことばかり書いて先生にお手紙差上げましたなら、下らぬ奴と、きっとおさげすみになりましょう。それが恐ろしくて、私は何にもものが申上げられませぬ。
今はただただ、勿体ない、うれしい、幸福な思いに、胸が一杯で、夢の中をうっとりとさ迷っているような気がします。そしてなんだかもう、死んでもよいような気さえ致します。
何もかも考えることがわけもわからなく、泣きたいような切ない切ない気が致します。
今日は一日、じめじめと雨が降りました。もう日も暮れかけて、煙った山がまるで絵のようでございます。
「永遠の人」という御本を、昨日姫路へ行って探してみましたけれど、どこにもありませぬ。東京にございますなら、
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