とは夢にもないものなのでございましょうか。私のことを田舎に住んでいる下女とお思い遊ばして、勝手気儘にお振舞い下さいましたなら、どんなにうれしいことでございましょう。
 先日、お米と煙草、少しお送り致しました。田舎には何もございませぬ。お許し下さいませ。
 ――――
 一昨日姫路へ行きましたちょっとの留守に泥棒にはいられて、着物をすっかり取られてしまいました。生きた心地もなく、もう死んでしまおうと思います。考えていると、胸が痛くて御飯もたべる気が致しませぬ。
 たまらなく淋しく悲しくなります。私が死んで、もし何か残るものがありましたら、それを先生にお貰い申して頂きましたら、どんなにうれしいことだろうかと思われますけれど、これはほんとうに失礼な申し分でございましょう。
 どうか私に先生のことをお想いすること許して下さいませ。それだけが私の心に仕合せな夢見心地を与えます。
 ――――
 私はたまらなくて、またお手紙致します。先生は、私がいやになったということさえ、もう仰言っては下さらないのでございましょうか。お願いでございます。そのこと一言仰言って下さいませ。早く早く、一刻も早く、それをきか
前へ 次へ
全23ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング