来なくては、読まない方がよろしいのでございましょう。文学というものはどのように鑑賞するものなのでございましょう。先生どうか教えて下さいませ。
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 私はたいへんみすぼらしくなりました。これはもう昨年からわかっていたことでございました。いろいろ工作しよう思いましたけれど、女ひとりで諸事思うに任せず、とうとう情けないことになりました。私の僅かな田が、不在地主とかで、こんど政府に買いあげられて、小作人の手に渡ってしまいます。私は腹が立ってたまりませぬ。一町歩以下ぐらいの僅少なものは、持たしていてくれてもよろしゅうございましょうに。
 私はお金が沢山ほしゅうございます。けれどそれはどうして得られるものか私にはわかりませぬ。貧乏は苦しくていやでたまりませぬ。私はお金がほしゅうございます。悠々と暮らせるようなお金がほしゅうございます。いつも情けないみすぼらしさがいやでたまりませぬ。
 先生、この手紙でもうお手紙下さらなくなるのでございましたら、お願いでございます。そのことを一言だけ仰言って下さいませ。
 先生をお失いするのは、堪えられませぬ、堪えられませぬ。
 どうか、田など無くなってもよ
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