旅行先から頂きました御手紙、ゆめのようにうれしくて泣きました。ぼんやり野面を眺めながら、このまま霧のように消えてしまいたいと思いました。
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 けさはずいぶん早く目がさめて、夜が明けるまでじっと雨の音をきいておりました。とりとめもないこと考えていましたら、また自分のことがわけがわからなくなって、悲しさで胸が一杯になりました。
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 私はこのあいだから、ちょっとお琴のお師匠さんになりました。
 ある人が、お琴や三味線でも教えたら、少しは気も晴れようと言って、お弟子を五人作ってくれました。何だかきまりわるい変な気が致します。
 それから、梨を一箱、運送店からお送り申上げました。十四五日もかかるとのこと、そして完全に着くとは受合いかねると、頼りないこと申しました。私は悲しくなりました。
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 先生はどのようなお正月をお送り遊ばしましたことでございましょう。私のお正月はつまりませぬ。どこへも出掛ける気がせず、ぼんやり物思いに沈んでおりました。
 先生のお手紙が今日もまいりませぬ。苦しく切なくてたまりませぬ。私はどうしてよいのかわかりませぬ。自分のことも何もかもわけがわか
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