な魂を、自覚すればするほど、私はこの世の人の群から我身を後退さしてまいりました。
 田舎にひとり住み、人に交わる心もなく、己ひとりにとじこもっておりますと、孤独は人の身のさすがに堪え難く、さりとて世間に交わる煩わしさは更に堪え難く、物狂おしい思いに、いっそ果知れぬ空虚の底に我身を打沈めてしまいたい衝動にかられます。月を眺め、空吹く風を愛し、お琴や三絃にうさをまぎらそうと致しましても、深い深いうつろ心の救い難さを、どうすることが出来ましょう。人も自然も、ゆがみ縮んだ小さな魂を決して受入れてはくれませぬ。
 愛もない、才能もない、生きる何のめあてさえない。
 土に這う虫にさえ、生きる自覚はあろうものを、虫より劣った愚かしい無能な人間が、この世に生きる何の意味がありましょう。文学とか芸術とか、そのような立派なものに我身を打込んで精進出来ましたなら、どんなにうれしく、また我道も開けるのではあるまいかと、夢のようなはかない空想にひたるのでございますけれど、何の才能もない愚かさに気づくと、まっくらな恥と絶望に心がめちゃめちゃに打ち拉がれ、打ちなえて、道を歩く気力も、人の顔を見る気力も、何をする気力も、何もかもすっかり失せて、この世に身の置きどころもない苦しい苦しい空虚に、胸がにえ返ります。
 何の道にも師弟の間はあるものゆえ、もし先生に泣き泣きおすがりして、我魂の眼を開いて頂き、救って頂けましたならと、ひとり思うのでございますけれど、そのようなことが果して我身に可能なことか、何も知らず知己をも持たぬ身の、ひとりで考え悩む愚かしさに、只うつうつと長い月日がたちました。
 私がこの世で一番おえらいと思い申上げております吉岡先生に、恥も厚顔も愚かさもかまわず、一度お手紙を書きまして、この切ない思いつめた一念をお訴えしてみようと決心致しました。愚劣なことを、ばかな気狂めと、先生がお顔をおしかめになってお怒り遊ばしますことは、火を見るよりもはっきり致しておりますけれど、私はもう無茶苦茶な心でこのお手紙書きました。
 哀れな淋しいみすぼらしい私の魂をお救い下さいませ。私に文学のことお教え下さいませ。小説を書くことお教え下さいませ。一生のお願いでございます。どうぞ哀れな小さい魂の切ない願いをおききとどけ下さいませ。伏して伏してお願い申上げます。
 苦しくて息がつまって、もうこれ以上書けませぬ
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