て来た俺に
ああそうだ
「友よ、手を握ろう。」
漂泊人の俺には
この友情だけが残っていた。
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この漂泊人は、丸ビルの二階で、「紳士や貴婦人や美しく着飾った令嬢や若者が、花びらのように流れてゆく」のを背後に感じながら、「何かぐっとこみあげてくるものを堪えながら、」刄物屋の前に佇んで、そこに並べられてる白刄を一心に眺める。そしてふと気がついて歩きだす。――
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此の蒙々とした群集の無智の総和の中に、
ああ俺は実に、きらめく一閃を欲していたのだ。
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そして彼は、至るところに、浅ましい人間生活の相を見る。卑猥なチンドンヤ、ばかげた夜店商人、醜悪な乞食、その他、「食わんがために、肉を売り、媚を売り、自ら恥かしめて生きねばならぬ様々な人の姿、」「一切を、売る、買う、売られる、買われる、」生活の相……。そして彼は叫ぶ。
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売るな、買うな、哀願するな
自らの必要なものをなぜ取らぬ
取るために戦う
その血潮の中にこそ
永い間見失っていた真実な人間の姿が
発見されるのだ。
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