異邦人の意欲
豊島与志雄
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)親友《とも》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから2字下げ]
−−
植村諦君の詩集「異邦人」は、近頃読んだもののうちで、感銘深いものの一つだった。
植村君の詩は、詩として上手なものではない。言語の駆使、イメージの喚起など、普通の作詩法的技巧において、苦心の足りない所がないでもない。然し、そういう技巧を超越して、簡明率直に歌っているところに、独特のリズムと清澄統一が獲得されている。殊に嬉しいのは、作者の意欲の力と純潔とが、作詩過程によって少しも乱されていないことである。この、意欲の力と純潔とが芸術的表現の過程によって乱されないということは、それだけで既に大したものである。
ところで、植村君の意欲は何であるか。それは、「異邦人」が「祖国」を求むる欲求である。
[#ここから2字下げ]
波止場に待っていた乞食は
船がつくと駆けよって
この俺にさえ物をねだってくれる
俺にまだ人に与えるものが残っているというのか
恋人も、親友《とも》も、ふるさとも
みんな捨て
次へ
全12ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング