した。恐ろしくて恐ろしくてなりませんでしたし、次には悲しくてたまりませんでした。私は生れて初めて本当に心から泣きましたの。
私はもうとてもあなたにはお目にかかれませんわ。この手紙が届く頃には、私は他の処へ行っていますでしょう。どうか行方を探さないで下さいまし。お目にかかれる気持になりましたら、私の方からあなたの所へ参ります。ただそれまでは、どうしてもいけませんわ。
今になって私はあなたのお心がようく分ったような気が致しますの。ほんとに何もかもお許し下さいまし。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から2字上げ]光子

 中身は月日も宛名もないただそれだけのものだった。私はくり返し読みながら、いつまでも顔が上げられなかった。
 松本は暫くして、自ら進んで云い出した。
「私は河野さんに呼ばれて全部の話を聞かされました。そして一日中考えてから、是非とも光子さんと結婚する気になったのです。あの女《ひと》の生《き》一本な一徹な性格がひどく私の心を惹きつけたのです。今ではもう恋してると云ってもいいかも知れません。」
 私は俄に顔を上げた。
「それで、君は彼女を探そうというのか。」
「いえ、探しはしませ
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