儘な放浪の生活をしてもいい。僕にはそれが、何だか新らしい本当の生活のような気もする。何処に行こうと自由だ。何をしようと自由だ。お前さえ承知してくれるなら……。」
「じゃあ一人でそうなすったがいいわ。」
 私は立止って振向いた。彼女は両肱をぐったりと卓子にもたせて、毒々しい軽侮の眼付で私を見ていた。
「お前は、僕を憎んでるね。」
「憎んでやしないわ。もう誰も怨んでも愛してもいないわ。ただ……。」
「え?」
「自分が憎いだけ。」
 ぶっきら棒に云ってのけて、突然、彼女ははらはらと涙をこぼした。私は呆気にとられて、その涙をぼんやり眺めていたが、不思議にぱっと一切のことが明るくなった。私は眼がくらむような気がして、椅子の上に身を落した。
「そうだったのか。やはりお前は……。」
 彼女はぎくりとして涙の顔を上げた。
「やはり松本君を愛してるのだろう。」
 そして私は惹きつけられるように彼女の眼に見入った。その眼は黝ずんでじっと据っていたが、私から徐ろに菊の花の方へ移ると、俄かにぎらぎらと輝いてきた。
「じゃあ私が松本さんを愛してるとしたらどうすると仰言るの? また愛していないとしたら、どうすると
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