とは、一度だってありゃあしません。そんな風では、いつまで待ったって片付くものですか。」
「ではどうすればいいんだい?」
「もう松本さんの心はきまっていますし、この上は光子さんの心だけでしょう。私が参って、一体光子さんはどう思ってるか、それをよく聞いてきましょう。河野さんには義理もあるけれど、穏かに話をすれば、あれだけの人ですもの、そう分らないことは仰言るまいと思いますわ。」
勿論それ以外に解決の方法がありようはなかった。然し彼女の調子は幾分私を驚かした。前から一々準備したようによく整った簡潔な文句を、もうきまりきったことのようにきっぱりと云ってのけて、それで一挙に事柄を決定してしまったのである。私にくどくどいろんなことを述べ立てて相談した彼女とは、すっかり異った調子だった。恐らく彼女は、私と松本との話を聞いてるうちに、何となくそれだけの決心を強いられたものらしい。そう私は咄嗟の間に感じて、何故となく不安の念に駆られてきた。
「勿論お前が行ってくれなければ、外に一寸行く人はないんだけれど……。」
「だから私が行きますわ。ねえ、松本さん、それでいいでしょう?」
「ええ。済みませんが、そう
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