」
「でも……。」
私は彼の露わな眼付にぎくりとした。と同時に、話の工合がいつしか自分にとって危険なものとなってるのを感じた。それで話の方向を一度に変えてしまった。
「で結局君は、どういうことにするのが一番望みなんだい。」
「私は、出来るならば、光子さんを暫くお宅に置いて頂いて、私と交際を許して頂きたいんですが。」
「今だって君は、自由に交際してるんだろう。」
「文通はしていますが……。」
「交際はしていないというのかい。へえー、僕はまた君達をもっと深い間柄だと思っていた。」
少し腹立ち気味の反抗的な気勢で、腕を組み眼を伏せて考え込んだ彼の姿を、私は小気味よく眺めやった。それを余りひどいとでも思ったのか、俊子が突然中にはいってきた。
「理屈はどうだって、兎に角光子さんをこのまま河野さんの所へ置いとくのはいけませんわ。北海道から遙々頼ってきたのをあすこへやったのですから、あんな話を聞いてこのままにしておくのは、私達としても済まないじゃありませんか。」
「だから僕はどうしたものかと考えてるんだよ。」と私は云った。
「あなたはいつもそれですもの、考えてばかりいて、はっきりと決断なすったこ
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