だけって……。」
「君は光子さんをどんな女だと思ってるんだい。」
「比較的真正直な怜悧な……いや何だかよく分りません。」
 彼は急に苛立ってきた。私はそれをなおつっ突いてやった。
「例えば、河野さんと実は関係がついていたり、北海道でいろんなことがあったり、そんな風な奔放な女だったとしたら?」
「え、そんな女でしょうか。」
「いやそれはただ仮定だよ、君の気持をはっきりさせるためにね。で、もしそうだったとしたら、それでもやはり君は、彼女を愛し続けてゆけるのか。」
 私の執拗な眼付に対して、彼は顔を伏せて暫く唇をかみしめていたが、やがてきっぱりと云った。
「愛し続けてゆきます。責任上愛し続けるつもりです。」
「責任だって?」
 然し彼は口を噤んで答えなかった。私には今以て、それがどういう責任の意味だか分らない。彼はやがて徐ろに云い出した。
「私はお宅で初めて光子さんに会って、それから次第にこういう気持へ落込んできたのですが、光子さんの身の上については実際よく知ってはいないんです。もし何か……ありましたら、教えて頂きたいのですが。」
「僕だって何も知りやしないよ。まあ、過去として葬るがいいさ。
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