て、また冷淡な態度を取った。
「厄介なことになったものだね。だがまあ、そのことは後でゆっくり相談しよう。僕は会社のごたごたした問題で、昨日から非常に疲れてるから、少し寝かしてくれ。」
彼女が不平そうにぶつぶつ云ってるのを知らん顔で、無理に布団を敷かして、私はその中に頭までもぐり込んだ。実際私は非常に疲れてもいた。けれど眠れはしなかった。
外部の事情からしてもまた私自身の気持からしても、光子のことに関して何とか解決を迫られてるのを、私は重苦しく感じてきた。然し私は何等解決の方法をも見出しはしなかったし、たとい見出しても、その方へ歩を進めるだけの元気がなかったろう。光子と別れてから後私は、全く無批判な盲目的な心境へ落ち込んでいた。善とか悪とか意志とか、そういったものを全然抜き去った、深い落莫の心地だった。自分の性的――否人間的――無気力を証明された痛ましい一夜から、じかにつながってきてるものだった。いろんな取止めもない妄想に耽りながらも、どうなるかなるようになってみろ! と捨鉢などん底に自然と腹が据っていた。
それで、その晩松本がやって来ても、私はわりに泰然とした皮肉さで、彼に接する
前へ
次へ
全89ページ中40ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング