泊してくることがあった。俊子は変な顔付で――それも私の思いなしかも知れないが――私の方を見ていたが、やがて、会社のことなんかどうでもいいという風で、困ったことが出来たのでお帰りを待っていた、と云い出した。けれど私も、家のことなんかどうでもいいという風で、着物を着換え初めた。所が光子とか松本とかいう言葉に、忽ち注意を惹かれてしまった。
 俊子の話を概略するとこうだった――昨日の朝、松本が慌しく駆け込んできた。そして光子とのこれまでのことを告白し、前日光子がやって来たことから、その朝までの一部始終を話した。それは私が光子から聞いた所と大同小異だった。そして松本の願いとしては、光子を救うと思って、暫く家に置くかまたは他の所へ世話するかして、兎に角河野さんの家から引出してほしい、とのことだった。俊子はひどく狼狽して、主人が帰ったらよく相談して、すぐに何とかしようと答えた。所が、晩に松本はまたやって来て、河野さんの家へ電話をかけたら光子はまだ帰っていない、ということを報告した。
「それから今まで、私は一人でどんなに気を揉んでたか知れませんよ。」と俊子は云った。
 大体の話が分ると、私は少し安心し
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