きてる蠅を与えて、羽をぶんぶんさせながら間もなく蟻の群に征服されるのを、面白そうに見ていた。終りには、大きな砂糖の塊《かたまり》を其処に置いて、蟻が吸いついたり、食いもぎって持っていったりするのを、縁側に腹匐いになって眺め初めた。
そんなことで、午前中は早くも過ぎてしまった。午後になると、彼は砂糖がまだ残ってるのを覗いてみて、更めて残酷な遊びを初めた。庭の隅の萩の若芽から油虫を取ってきて、それを蟻に与えた。裏口の土の中から蚯蚓を探し出してきて、それを蟻に与えた。大きくて蟻が引ききれないような蚯蚓は、棒の先で二つか三つかにぶっ切って、苦しみ※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]いてるのをそのまま与えた。その他いろんな虫を与えてみた。毛虫には、二つに切った傷口にでなければ、蟻は食いつけなかった。蛞蝓《なめくじ》には、決して蟻は寄りつかなかった。
七月の太陽がぎらぎら照りつけてる中で、彼は額に汗をにじませながら、誰が何と云っても耳を貸さないで、生きた虫類が蟻に取巻かれてのたうち廻ってる、その不気味な光景に夢中になって、夕方まで過してしまった。日が陰ってきても、頭のしんがくらくらし
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