ってるんだ、指輪を受取る時の彼女の眼付は、そりゃあ綺麗だった。僕はあんな眼付が好きなんだ。断じて結婚してみせる。それから学校を止そう。もし彼女と結婚が出来なければ、僕は意地でも、向うから罷めさせるまで辞表は出さない。」
 私は彼の気質を知っていたので、無理に逆らうこともしかねた。兎に角学校の人に逢って、詳しく事情を聞いた上で……とそう思って、彼をなだめ帰して、学校へ出かけていった。
 学生監と教務主任とに逢って、私は前述のような話を聞いたのだった。大体長谷部から聞いた通りで、ただ、彼女が指輪を喜んで受取ったと否との点だけが違っていた。長谷部は彼女が喜んだと云っていたが、学校では長谷部が彼女を強迫したようになっていた。がそれは、一心に思いつめた顔付でつっ立ってる彼を前にして、彼女が感じたろう気持を想像してみると、どちらも真に近いものだったろうと思われる。そしてそんなことよりも、なお、一層曖昧な事柄がこの話の中にはいくらもあった。
 後で聞いたところによると、彼女の所謂透視なるものが頗る怪しげなものだった。的中するのは十回のうち四五回に過ぎなかった、と云う人さえあった。また、それを本当に信
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