ありません。彼女の不思議な能力に対する感謝のしるしです。私がいくら練習しても、心を練っても、到底会得出来ない能力を彼女が持ってるからです。」
 その能力というのは、透視……というほどではないが、一種の精神感応力だった。盆の上に茶碗を幾つも伏せておいて、どれかの中に貨幣を入れておくと、彼女は上からじっと眺めながら、それをよく云い当てた。教師連中は面白がって、当ったら中の貨幣をやることにして、度々彼女に試みさした。外れることも時にはあったが、大抵は美事に当った。
 それを最も不思議がって、彼女に最もしつっこく試みさしたのは、長谷部だった。しまいには、ありったけの五十銭銀貨を持ち出したり、また自分で試みてみたりした。彼女も遂には嫌がって、なかなか求めに応じなくなった。然し長谷部は一人で熱中していった。透視や千里眼なんかに関する書物は勿論のこと、心霊研究の方面の書物までも買ってきて、夜遅くまで読み耽った。
 そういう彼の熱心さを、教務主任と学生監とは信じなかったし、また彼の方でも誇示しようとしなかった。ただ彼がいつも一心になって、女給仕の透視に立会ったり、始終彼女に透視を強いたりしてるのは、そ
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