てみたが、聞き出すことが出来なかった。そのうちに、彼女達は帰っていった。そして十五分ばかりすると、年上の方のが戻ってきて、学生監に訳を話した。それによると、若い方のが一人きりでいる時、長谷部がはいって来て金の指輪をいきなり差出したそうだった。彼女は断った。然し彼は恐ろしい勢で睥みつけて、その上拒めば打ち殺しもしかねないような様子で、無理に受取らしてしまった。そうして彼が出て行ってしまった後で、彼女は何だか急に恐ろしくなってぼんやりつっ立ってるところに、年上の同輩が室に戻ってきて、手に持ってる金指輪を見付けた。不審がられて尋ねられると、彼女は不意に泣出してしまったのだそうだった。
 その話を聞いて[#「 その話を聞いて」は底本では「その話を聞いて」]、学生監は処置に困った。とりあえず彼女に口止をしておいて、それから教務主任の室へ行って、二人で相談してみたが、長谷部を辞職させるという以外に、名案も浮ばなかった。
 一方でそういうことになってるとは知らないで、長谷部は翌日学校へ出ていって、学生監と教務主任とから別室に呼ばれた。その時彼は平然として答えたのだった。
「別に悪意あってしたわけでは
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