代とそっくりの気持ちを失わないでいられたためか、大学生のお友達なんかも沢山あって、正月には歌留多会やなんかで、家の中が非常に賑やかになった。ずっと年下な私は、いつまでも子供扱いにされてるのに甘えて、家の中で勝手に騒ぎ廻った。
 松の内が夢のように過ぎて、また学校が初まった時、私は又お寺の前を通るのが、一寸恐いような気がした。なぜだかは自分でも分らなかった。そして御門から中をちらりと見やっただけで、足早に通り過ぎた。けれどもお坊さんの姿は、一度も見えなかった。私は訳の分らない安心を覚えた。初めは逢えないのを悲しんでた私が、僅か一月の間に、逢うのを恐がるようになったのである。それは、暫くでも忘れかけたのを済まなく思うからでもなく、愛が起りはすまいかと気遣ったからでもない。此度また毎日逢うようになったら、それは何か新らしい不安な形式――愛ではない――を取りそうに、思えたからである、それが自分の心に、何かの煩いを齎しはすまいかを、恐れたからである。
 一度もお坊さんの姿を見かけないで、一種の安心を覚ゆると共に、私は本当にお坊さんを忘れていった。その上、一月二月と過ぎて、時は春になりかかっていた
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