るで白痴のような時間を過した。夜になると一人では寝られなかった。御両親と弟と皆で一つ室に寝て貰った。それでも私は時々、彼の幻を見て飛び起きることがあった。
 御両親の心配はどんなだったろう! 私はただ晩にうなされるとだけで、本当の原因は云い得なかった。うち明けたら猶更御両親の心配は増すだろうと思ったからである。
 私は日に日に痩せ衰えていった。そして東京の兄さんに逢いたくなって、簡単に事情を知らした。兄さんはすぐにやって来られた。それが十二月二十七日だった。私はもう二三日のうちに死ぬものだと覚悟していた。
 兄さんは私から詳しいことを聞いて、非常に驚かれたようだった。けれどもわざと平気を装って、気のせいだと云われた。そして兎も角も、出来るだけ安静にしているように私に命ぜられた。晩には催眠剤を飲ませられた。お医者の診察では、私は極度の神経衰弱で、その上心臓が非常に弱ってるとのことだった。
 死を覚悟していた私は、そのまま年末を通り越して、十九のお正月を迎えた。私はほっと安心した。そのせいか、彼の幻影に悩まされることは少くなった。少しずつ元気になっていった。
 けれども、私の運命は永久に彼
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