気な靄が立ち罩めていた。襖の彼方に、彼が立っていた。私の方をじっと見つめていた。私にはそれがはっきり分った。私は蒲団を頭から被ろうとした。けれども手足が鉄の鎖ででも縛られたように、身動きさえ出来なかった。……やがて彼はすーっと襖を開けて、室の中にはいって来た。そして私の方を鋭い眼で見つめながら、頭をこっくりこっくり動かして、私の寝てるまわりをぐるぐる歩き初めた。私は眼をつぶっても、その姿がはっきり見えた。息がつまってしまった。歯を喰いしばって身を※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]きながら、飛び起きてやった。……それがやはり夢だったのだ。彼の幻は消えて、室の中には五燭の電灯がぼんやりともっていた。私はぶるぶると震え上った。いきなり大きな声を立ててお母さんを呼んだ。お父さんもお母さんと一緒にやっていらした。私は大きな溜息をついて、蒲団の上に倒れてしまった。そういうことが三日置き位には起った。而も昼間になると妙にぼんやりして、凡てを忘れたような放心状態になった。
やはり私にはそれが運命だったのだ。私はもうどうすることも出来なかった。昼と夜とが別々の世界になってしまった。昼間はま
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