。和尚さんも其処に坐っていられた。私はただ急に気分が悪くなったことだけ答えた。
暫くして心が少し静まると、私のうちには、自暴自棄な勇気がむらむらと湧いてきた。自分の運命と取組んでやれというような気がしてきた。私は俄に身を起して、もうすっかり直ったと云った。そして快活に話しだした。お母さんや和尚さんの驚きなんかには頓着しなかった。自分でも喫驚するほど元気に振舞った。そうしながらも、私は思慮をめぐらして、先刻のお坊さんのことを聞き糺した。すると、……私はほんとにどうかしていたのだ! そのお坊さんは、四五年も前からこのお寺に養子に来てる人で、和尚さんの後を継ぐべき人だったのである。そして非常に立派な人だとか。
私は茫然としてしまった。けれどもまだすっかりは疑いがとけなかった。先刻の失礼をお詑びしたいと云って、お坊さんをまた呼んで貰った。そして、はいって来たお坊さんの顔を見ると、それは彼とは似寄りの点もない人だった。私は自分が自分でないような心地をしながら、家へ帰った。そして、それが初まりだった、私が彼の幻影にひどく苦しめられたのは!
その晩、私は妙に息苦しい思いで眼を覚した。室の中に陰
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