は是非待って下さい。それまでに私は外国で立派な者になって来ますから、」と彼は涙を流しながら頼んだ。それで兄さんも我を折って、「それほど固い決心なら、何れあなたの寺の住職とも相談の上、私も何かの力になってあげよう、」と云い出された。すると彼はまたわっと声高く泣き出して、如何に引止めようとしても止まらないで、帰って行った。兄さんは門の所までついて行って、「何れ私から和尚さんに万事のことを相談するまで、決して早まった無分別なことをしないように……。」とくれぐれも云われたが、彼はただ黙ってお辞儀をして帰って行ったそうである。
「あれほど一心になれば豪いものだ、僕まで本当に感激してしまった。」
兄さんはそう云って、話の終りを結ばれた。
私は兄さんの語を聞いてるうちに、いつのまにか涙ぐんでいた。
「でも何だか可笑しな話ね。」と義姉さんは仰言った。「あなたまで誑かされたんじゃないでしょうか。そんなお約束をして後で……。」
「いや大丈夫だ。とにかく寺の住職に逢って話してみれば分る。」と兄さんは答えられた。
私はその晩早く床にはいった。けれども長く眠れなかった。非常な幸福が未来に待っているような気
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