て、一層悄衰の様子に思われた。そして落ち凹んだ眼の中に、黒ずんだ鋭い光りがあった。
私はその眼の光りに、いつも脅かされた。或る時、彼が門の外に出て来てるのを見ると、私はもうその前を通れないような気がした。眼をじっと伏せたまま通りかかると、足が自然に小走りになってしまった。そして後ろを振り返る勇気もなかった。
その頃から、私はなるべくお寺の前を通らないようにした。けれども、そうするには遠い廻り道をしなければならなかった。朝少し遅くなった時なんかには、余儀なくお寺の前を通っていった。するといつも彼が立っていた。また学校の帰りにも、少し時間が早かったり遅かったりする時には、お寺の前を通っていった。彼の姿が見えないと、災難を免れたような気がした。けれども、それはごく稀れであった。
私は近所に、同じ学校へ通うお友達を持たなかった。所が或る日、親しいKさんが私の家へ遊びに来るというので、二人で学校の帰りに、お寺の前を通りかかった。その時もまた、彼が箒を持って立っていた。私が足早に通りすぎるのも構わずに、Kさんはゆっくりした足取りで歩きながら、彼の方をじろじろ見返してるらしかった。そして私に追
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