代とそっくりの気持ちを失わないでいられたためか、大学生のお友達なんかも沢山あって、正月には歌留多会やなんかで、家の中が非常に賑やかになった。ずっと年下な私は、いつまでも子供扱いにされてるのに甘えて、家の中で勝手に騒ぎ廻った。
松の内が夢のように過ぎて、また学校が初まった時、私は又お寺の前を通るのが、一寸恐いような気がした。なぜだかは自分でも分らなかった。そして御門から中をちらりと見やっただけで、足早に通り過ぎた。けれどもお坊さんの姿は、一度も見えなかった。私は訳の分らない安心を覚えた。初めは逢えないのを悲しんでた私が、僅か一月の間に、逢うのを恐がるようになったのである。それは、暫くでも忘れかけたのを済まなく思うからでもなく、愛が起りはすまいかと気遣ったからでもない。此度また毎日逢うようになったら、それは何か新らしい不安な形式――愛ではない――を取りそうに、思えたからである、それが自分の心に、何かの煩いを齎しはすまいかを、恐れたからである。
一度もお坊さんの姿を見かけないで、一種の安心を覚ゆると共に、私は本当にお坊さんを忘れていった。その上、一月二月と過ぎて、時は春になりかかっていた。ああ十七の春、私はどんなに晴々しい心地であったか! それは、うち晴れた大空の下に、広い野原の真中に、一人つっ立っているようなものであった。何のこだわりもなかった。踊りたかった、走りたかった、空高く翔りかけた。空想と現実とが一つに絡み合って、美しい夢の世界を拵え初めていた。
それなのに……。
桜の花が散って青い葉になろうとしてる頃、私が四年級になって間もなくの頃……私はその日をはっきり覚えている……四月二十一日! その午後、私はまた彼の姿を――もうこれからは彼と呼んだ方が私には自然なのだ――彼の姿を、お寺の中に見出したのである。
私はいそいそとした心持ちで、行手に幸福が待ち構えてるような心持ちで、学校から帰ってきて、お寺の前を通りかかると、何の気もなくふと御門の方を覗いてみた。そしてはっと立ち竦んだ。向うの大きな石牌の影から、彼の頭がこちらを見つめていたのである。首から下は見えなかった。首から上だけが、石牌からぬっと差出されて、その顔と頭との全体が、私の方をじっと見つめていた。私は一瞬間、それが彼であることを怪しむと共に、云い知れぬ恐怖に固くなってしまった。が次の瞬間には、その頭
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