さんのお友達に対する気持ちよりも、更にずっと淡いものであった。ただ、なつかしい叔父さんといったようなものだった。そうでなければ、最初の恥しい思いのすぐ翌日から、あんなに心安く微笑みを返せるわけはない、毎日何の気もなく微笑み合えるわけはない。
 楓の葉が紅く色づいて、次にはらはらと散る頃になっても、私はお坊さんと大抵毎日のように顔を合していた。そしてただ微笑み合うだけで、重々しい御門の柱の禁札をも、別に怨めしいと思う心は起らなかった。ただ日曜や雨の日は、お坊さんの姿が見られないので、何だかつまらなかった。
 所が十二月の初めから、お坊さんの姿がぱったり見えなくなった。私は学校の帰りなどに、わざわざお寺の前を二三度往き来したこともあった。けれどもお坊さんは姿を見せなかった。私は妙に物悲しくなった。そして最後に逢った日のことを、後ではっきり思い出した。
 その日お坊さんは、寒そうに両袖を胸に組んで、石牌の横にしょんぼり立っていた。私が御門を通りかかると、首垂れていた顔を一寸挙げたきり、いつものように微笑みもしないで、またすぐに顔を胸に伏せてしまった。じっと眼をつぶってるようだった。後で考えると、それは涙を落さないためだったようにも思われる。けれどその時私は、何となく変だと思ったきりで、別に驚きもしなかった。
 お坊さんの姿が見えなくなってから、後でその事を思い浮べてみると、其処には何か深い訳があるような気がしてきた。或は病気ではないかしら……或は何処か他の寺へでも移られるのではないかしら……或は遠い旅へでも行かれるのではないかしら……考えれば考えるほど、もうお坊さんに逢えないということだけが、はっきり事実として残るのであった。なぜ理由を云って下さらなかったのかと、怨めしい気もした。お坊さんの身分だからと思い直してもみた。そして深い淋しさが、悲しさが、私の心にしみ込んでいった。お寺の前を通るのがつらいような心地もした。通る時には、御門の中を覗くまいとつとめた。でも覗かないではおられなかった。そしては猶更悲しくなるのであった。
 そのうちに、私には学期試験がやってきたし、ついで冬休みとなり、またお正月となった。そしてお坊さんのことは、忘れるともなく忘れていった。兄さんは学生のうちから、かねてお約束の義姉さんと結婚なされ、大学を出るとすぐ会社に勤めてはいられたけれど、まだ学生時
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