の鮨をむしゃむしゃ食べ初めた。
「あら、まだ怒ってるのね、こんなに謝ってるのに。」
「謝り方が足りないよ。」
心にもないすね方をしてはみたものの、実はそんな所に気持がこだわってるのではなかった。じっとしてるのが堪らなくなった。
「ねえ、君は、僕が一緒に連れて逃げると云ったら、ついてくるかい。」
「ええ、いくわ。」
「じゃあ、一緒に死のうと云ったら?」
「死んだって構わないわ。」
「そんなら、君だけを僕が締め殺すと云ったら?」
「いやあよ、一人っきりじゃ!」
「とうとう本音を吐いたね。締め殺してやるからこっちにお出でよ。」
「いくもんですか。」
「屹度来ないね。」
「ええ。」
高慢ちきな鼻をつんと反らして、凹んだ眼で睥み返してくるのを、私はつと身を起して引捉え、膝の上に抱き上げてやった。力を籠めて掴んだら折れそうな、肉のつかない細い腕だった。ただ乳房だけが着物の上からも、むっちりと膨らんで感ぜられた。そして私は、ふふんと云った顔付で身体を任してるこの小さな娘を、どうしてくれようかと残忍な方法を考え廻した。それは虐げられた者に対する腹癒せであり、また自分自身に対する腹癒せであった。
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