れてるせいか、眠くって堪らないのよ。」
「おい、滅多なことを云うなよ。客の前でそんな口を利くってことがあるか。」
「あら、御免なさい。」
眉根を挙げ眼をぱっちり見開いて、頸筋をしなやかに傾《かし》げながら、小娘にしては喫驚するような嬌態《しな》をしてみせた。
「こんな商売を初めてから、どれくらいになるんだい。」
「まだやっと二月《ふたつき》よ。」
「嘘だろう。十四というのは本当かも知れないが、二月というのは嘘だ。」
「いいえ、本当よ。」
十四歳というのに、多少興味を覚え出して、いろいろへまなことを尋ねかけてきた私は、そこで妙に気持がはぐれて、そのまま口を噤んでしまった。彼女も黙っていた。暫くすると、彼女はわざと子供子供した甘ったれた調子で云い出した。
「私お腹が空いちゃったから、何か食べさして下さらないこと?」
「そんなら鮨でも取ったらいいだろう。ついでにお酒を一本添えて貰うといいな。」
彼女は立上りかけたが、俄にまた腰を下した。
「あなた、今晩泊っていっていいんでしょう。」
「いけないよ。」
「なぜ?」
「帰らなけりゃならない。」
「そんなら、一時間……」と云いかけて彼女は一寸
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