他の場合よりも罪が重いものでしょうか。」
「さあ、僕は専門家でないから、罪の軽重は分りませんが、そういう殺人でもやはり、立派な殺人には相違ありませんね。」
「それでも、金を盗むためとか、何かそんな風な人殺しよりは、まだたちのいい人殺しじゃありませんでしょうか。」
「たちがいい……とも云えるかも知れませんが、或はまた、一層たちが悪いとも云えるかも知れませんね。なぜなら、単なる興味や気分のために人殺しをするような奴は、動物に近く人間に遠いとも云って差支えないほど、極端に残忍な性格の者に相違ないからです。それに第一、殺人そのものが罪悪ですから、金銭のためであろうと、興味のためであろうと、そんなことは余り問題にはならないでしょう。興味のために行われる事柄で、立派に罪悪となるのもありますからね。一例を拳ぐれば、強姦なんかは、何のために行われると君は思いますか。」
「それは無論情慾のためでしょう。」
「そうです。所がその情慾というものが、興味というものとどれだけの差がありますか。比較的弱い情慾は単なる興味と同じものです。ただ人間の性質上、殺人は多く金銭や嫉妬や怨恨から行われ、強姦は多く情慾や興味や
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