がゲームを初めてるうちに、僕は水を一杯貰って、飲み終ったコップを横手の小卓へ置きにいって、振向いたとたんに、彼女とぱったり眼を見合してしまった。
彼女……というのは、入口に近い窓際の長椅子に坐っている、服装から髪恰好まで一寸生意気な、どこかつんとした調子のある、二十二三の女だった。それが、よく見ると、僕が行きつけのカフェーに以前いた、お久という女給だ。
――おや、変なところに……。
じっと見つめると、お久はあるかないかの会釈を眼付に示して、そのまま顔を伏せてしまった。
見廻したが、連れらしい者もない。
――変な奴だな、カフェーから姿を隠し、こんなところに……。
怪しいという気持と、一寸親しみの気持とで、何気ない風をして寄っていった。
「暫くだね……。」
低めたつもりの声が、がんと響いたと思われるほど強く反応して、彼女ははっと顔を挙げた。
「どうしたんだい……球を撞くのかい。」
真正面に見向いてる眼が、軽い滑稽な敵意を帯びて、わざとらしく睥めている。――二三ヶ月以前よりは、顔が引締って綺麗になっていた。
「いいえ、球なんか……。」
「じゃあ……。」
「一寸用があった……。
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