を世界のピース・センターにせんとの委員会が設けられた。ノーモア・ヒロシマズの声は世界に拡がりつつある。広島市庁には世界各地からの同情ある書信が到来しつつある。
この世界の与論に応じて否むしろそれに先んじて、ヒロシマは自らを平和都市となし、世界平和運動の根拠地たらんと自ら期している。だが、広島平和都市案は既に国会で可決されてはいるが、市の貧しい財政状態を以てしては、理想がいつ実現されることであろうか。原爆被害の物的資料の保存にさえ、安全な建物に事欠く現状である。平和記念館を建て、爆心地付近や城趾の荒野に大公園を設け、橋梁を修理し、河川を清掃し、放水路を作り、広い街路を通じ、河岸の緑地遊歩場を拵え……おう、限りなく仕事がある。
他方には、前述の老婦人が指摘したように、暗い面も多い。難渋な人々や気の毒な人々を善導して明るくしてやらなければならない。それに元来、広島は軍部に依存した所謂軍都であった。それが新たに、文化都市へ更生せんとする脱皮の悩みもある。それでも、多くの市民たちは、平和都市計画のために必要な私有土地を、進んで市へ還付しているのだ。
理想の実現には長年月を要するだろう。だが
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