ジャングル頭
豊島与志雄

 夜の東京の、新宿駅付近や、上野不忍池付近は、一種のジャングル地帯だと言われる。酔客、ヨタモノ、パンスケ、男娼、などなどの怪物が横行していて、常人は足をふみ入れかねる。このジャングルを、一夜、警官の案内で坂口安吾は探検した。
 だが、ジャングルは他にもある。近頃の若い婦人の頭髪を御覧なさい。パーマの長髪を、頭の二倍大、三倍大にふくらまして、颯爽と五月の風になびかしてる、と言いたいところだが、実は、ただもじゃもじゃ、くしゃくしゃ、後頭部から肩へ引っかついでるだけで、雀の巣どころの代物ではなく、全くのジャングルだ。
 これが、頸筋のすっきりした長身の体躯ならば、まだよい。然し不幸なことには、彼女等の多くは、お尻だけは比較的大きいかも知れないが、胴体も寸づまり、脚も寸づまりのちんちくりんなのである。たとえ、ハリウッド好みのワンピース、ツーピースをまとい、ハンドバッグの革紐を肩にかけ、ハイヒールの上に反りかえろうと、その矮小な体躯は、所詮、ごまかせるものではない。そして徒らに、頭髪のジャングルだけが大きく目立つ。言わば髪の毛の化物なのだ。
 こんなのを、ジャングル頭
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