日本は既にその憲法によって、戦争を放棄した。この崇高な理想を達成するには、先ず、如何なる場合にも武器を手に執らないとの決意が必要であるし、その前に先ず、暴力否定の決意が必要である。それ故に猶更、ジャングル頭の追放が要請される。
 矮躯短脚の上に巨大な毛髪ジャングルを乗っけたお化け姿も、見っともないものではあるが、石をつめこんだような重いジャングル頭でふらふら歩いてる姿は、見っともない以上に危険である。だがそれも、駈足で歩いてる時代の副産物なのであろうか。
 駈足といえば、ここでちょっと、御婦人への失礼のうめ合せをしておこう。女競輪を御覧なさい。あの軽快な自転車の上に、巨大なお尻をぐるぐるとゆさぶって、疾走している後姿だ。スマートな機械と偉大な肉体との対照は、グロテスクとも言えるが、見ようによっては、またなかなか趣き深いところもある。ゴム輪は一直線に小揺ぎもなく走っているのに、その上に乗っかった巨大なお尻は、ゆらゆらぐるぐる、餅をこね廻してるかのようだ。その両者が対照の妙を極めて、疾走し続けるのである。万事がこの調子で運行してゆけば、まず世の中は平和で安泰だと言えるであろうか。


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