のままにしておきましょうよ。私たちの友情よりりっぱなものがありますでしょうか?」
彼はやや苦々しげに微笑《ほほえ》みながら頭を振った。
「ええそれで結局、あなたは十分私を愛していられないんです。」
彼女もやや憂わしげにやさしい微笑を浮かべた。ちょっと溜《た》め息をついて言った。
「そうかもしれません。あなたのおっしゃるのは道理《もっとも》です。私はもう若々しくはありません。私は疲れております。あなたのようにごく強い者でないと、生活に擦《す》り減らされるのです……。ああ、時とすると、私はあなたをながめていて、十八、九歳の悪戯《いたずら》青年ででもあるような気がすることがあります。」
「それはどうも! こんなに老《ふ》けた頭をし、こんなに皺《しわ》が寄り、こんなに萎《しな》びた色|艶《つや》をしてるのに!」
「あなたがお苦しみなすったこと、私と同じくらいに、おそらく私以上に、お苦しみなすった、ことは、私にもよくわかっております。それは私にも見てとられます。けれどあなたはときどき、青年のような眼で私をお見になります。そしてあなたから新しい生の泉が湧《わ》き出るのを、私は感ずるのです。私自
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