その霊妙なる才能のうちに存している。――真実よ、汝を所有してる人々の上に、汝の強健さの魔法の息吹《いぶ》きを広げる、汝真実よ!……
クリストフはそれらの言葉を聞いたとき、それを自分の声の反響かと思った。そして彼らと自分とは兄弟であることを感じた。国民や観念の闘争の偶然性のために、他日敵味方となって混戦中に投ぜられるかもしれないが、しかし味方となろうとも敵となろうとも、常に同系の人間であったし、いつまでも同系の人間であるだろう。そのことを彼らは彼と同様に知っていた。彼よりも以前に知っていた。彼が彼らを知る前に、彼は彼らから知られていた。というのは、彼らはすでにオリヴィエの仲間であったから。クリストフは、パリーではごく少数の人からしか読まれていない友の作品が――(数冊の詩集と論文集)――それらのイタリー人たちから翻訳されて、彼らにも親しいものとなってるのを、見出したのだった。
その後彼は、それらの人々の魂とオリヴィエの魂とを隔ててる越えがたい距離を、見出さざるを得なかった。他人を批判する態度においては、彼らはどこまでもイタリー人であって、己《おの》が人種の思想の中に深く根をおろしてい
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