ールムを見、深い蒼空《あおぞら》が青い光の淵《ふち》となって向こうに開けてる、パラチーノ丘の半ばくずれてる迫持《せりもち》を見た。また、泥《どろ》で赤く濁ってあたかも土地が歩き出してるようなテヴェレ河のほとり――大洪水《だいこうずい》以前の怪物の巨大な背骨みたいな溝渠《こうきょ》の廃址《はいし》に沿って、広漠《こうばく》たるローマ平野の中をさまようた。厚くかたまってる黒雲が青空の中を流れていた。馬に乗った百姓たちが鞭《むち》を振り上げながら、長い角を生やした銀鼠《ぎんねず》色の大きな牛の群れを、荒れ地を横ぎって追いたてていた。まっすぐな埃《ほこり》っぽい露《あら》わな古い大道の上を、股《また》に毛皮をつけた山羊足《やぎあし》の牧人たちが、低い驢馬《ろば》や子驢馬の列を引き連れて黙々と歩いていた。地平線の奥には、神々《こうごう》しい線をしてるサビーノの山脈の丘陵が展開しており、大空の丸天井の他方の縁には、都会の古い囲壁が、踊ってる像をのせた聖ヨハネ寺院の正面が、その黒い影を投じていた……。静寂……照り渡ってる太陽……。風が平野の上を吹いていた……。腕は結《ゆわ》かれ頭は欠けて雑草の波に打
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