かった。同じ道楽気分で政治や芸術に関係していた。彼らのうちには、繊細な顔だちをし、怜悧《れいり》なやさしい眼つきをし、静かな挙措を有してる、ローマ貴族の美しい型が、魅力ある性質の人々が、見られるのであった。そしてその人々は温厚な心で、自然や古い画家や花や婦人や書物や美食や祖国や音楽……などを好んでいた。あらゆるものを好んでいて、何一つ選び取らなかった。時とすると何にも好んでいないのかと思われるほどだった。それでも愛情は彼らの生活のうちに大きな場所を占めていた。ただ条件として、愛情が生活を乱さないということだった。その愛情も彼らと同様に無頓着《むとんじゃく》で怠惰だった。恋愛でさえも家庭的な性質を帯びがちだった。よくできて調和のとれてる彼らの知力は、いかなる矛盾した思想が出会っても、たがいに衝突することなく、穏やかに結合して、にこやかに鈍くなり、順従になってゆく、一種の懶惰《らんだ》な性質に満足していた。彼らは徹底的な信仰を恐れ、極端な党派心を恐れていて、半端な解決と半端な思想とに安んじていた。彼らは自由的保守の精神の人々だった。息切れや動悸《どうき》の恐れがない気候温和な転地場所のよう
前へ 次へ
全340ページ中36ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング