な、ほどよい高さの政治や芸術が彼らには必要だった。ゴルドーニの怠惰な芝居やマンゾーニの一様にぼやけた光などが、彼らの気にかなっていた。彼らの愛すべき懶惰な心は、そういうものから不安を覚えさせられることがなかった。彼らはその偉大な祖先らのように、「まず生きることである[#「まず生きることである」に傍点]……」とは言わないで、「肝要なのは穏やかに生きることである[#「肝要なのは穏やかに生きることである」に傍点]」と言うに違いなかった。
穏やかに生きること。それがすべての人々のひそかな願いであり志望であって、もっとも元気|溌溂《はつらつ》たる人々や実際の政治を支配してる人々でさえそうだった。たとえばマキアヴェリの徒弟たる者、自己と他人との主であり、頭と同じく冷静なる心をもち、明晰《めいせき》で退屈してる知能をもっていて、自分の目的のためにはあらゆる手段を用いることを知りかつでき、自分の野心のためにはあらゆる友情をも犠牲にする覚悟でいる者、そういう人も、穏やかに生きる[#「穏やかに生きる」に傍点]という神聖なる一事のためには、その野心をさえ犠牲になし得るのであった。彼らには無為怠慢の長い期間
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