人を窺《うかが》うパリー客間の心理家や、ドイツの軍人万能主義の大先生などに、出会う恐れは少しもなかった。彼らは単に人間であり、きわめて人間的な人間であって、昔のテレンティウスやスキピオ・エミリアヌスなどの友人らと同じだった……。

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予は人なり[#「予は人なり」に傍点]……。
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 美《うる》わしい前面。生活は実質的よりもいっそう外見的であった。その下には、あらゆる国の上流社会に共通である、癒《いや》すべからざる軽佻《けいちょう》さが潜んでいた。しかしこの社会に民族的特質を与えてるものは、その無精さであった。フランス人の軽佻さには、神経質な焦燥が伴っていて、たとい空回りをしようとも、たえず頭脳が働きつづけている。しかるにイタリー人の頭脳は、休息することを知っている、あまりに知り過ぎている。柔惰な享楽主義の生温《なまぬる》い枕《まくら》をし、皮肉できわめて軽捷《けいしょう》でかなり好奇的で根本は驚くばかり冷淡な才知の生温い枕をして、暖かい木陰にうとうとと居眠るのはいかにも快いことである。
 それらの人々はみな一定のはっきりした意見をもっていな
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