」に傍点]、堅固なる瑞々しき身体[#「堅固なる瑞々しき身体」に傍点]。
[#ここで字下げ終わり]

 その姿体は調和のとれた豊満さをそなえていた。その身体は高慢な懶《ものう》さに浸っていた。静安の天性が彼女を包んでいた。北方人の魂がけっしてよく知り得ないような、日の照り渡った静寂と揺《ゆる》ぎない観照とをむさぼる性質をそなえており、平和な生活を官能的に享楽する性質をそなえていた。彼女が昔どおりになお持ってたものは、ことにその大なる温良さであって、それが他のあらゆる感情の中にまで織り込まれていた。しかし彼女の晴れやかな微笑《ほほえ》みのうちには、新たないろんなものが読みとられた。ある憂鬱《ゆううつ》な寛大さ、多少の倦怠《けんたい》、一抹の皮肉、穏和な良識など。彼女は年齢のためにある冷静さを得ていて、心情の幻にとらわれることがなく、夢中になることがあまりなかった。そして彼女の愛情は、クリストフが押えかねてる情熱の激発にたいして、洞察《どうさつ》的な微笑を浮かべながらみずから警《いまし》めていた。それでもなお彼女は、弱々しい点もあり、日々の風向きに身を任せることもあり、一種の嬌態《きょうたい
前へ 次へ
全340ページ中32ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング